本記事は2026年6月12日(金)の東京株式市場を詳細に分析した「深掘りノート」です。通常版の記事はこちらからご覧いただけます。

6月8日(月)の2,563円急落から始まった激動の1週間が、劇的な幕引きを迎えた。前日夜(日本時間)にトランプ大統領が対イラン攻撃中止を表明し「週末にも停戦合意署名の可能性がある」と発言。米国市場でダウが929.97ドル高・ナスダックが640.16ポイント高と急反発し、その流れを受けた東京市場も朝方から全面高となった。日経平均の上げ幅は一時2,800円を超え、6万7,000円を上回る場面もあった。メジャーSQ値(66,698.04円)を大きく上回ってスタートしたことがさらなる買いを誘発し、最終的には1,802円77銭高の66,020円04銭で大引けを迎えた。

「相場の主役交代」を象徴する出来事も起きた。半導体メモリー大手キオクシアHDの時価総額がトヨタ自動車を抜いて国内首位に浮上。AIシフトという時代の流れが一つの具体的な事実として刻まれた1日となった。通常版の記事はこちらからご覧いただけます。

1. 相場サマリー

指数 終値 前日比 騰落率
日経平均 66,020.04円 +1,802.77円 +2.81%(2日続伸)
TOPIX 3,881.96 +51.61 +1.35%(3日ぶり反発)
JPXプライム150 1,624.46 +18.03 +1.12%(3日ぶり反発)
グロース250 確認できず 確認できず 確認できず
項目 数値
6月限SQ値(市場推計) 66,698.04円
日中高値(一時) 67,000円超(確認できず・上昇幅2,800円超から推計)
東証プライム 売買代金 12兆7,697億円
東証プライム 売買高 27億5,012万株
値上がり銘柄数 964銘柄(約62%)
値下がり銘柄数 555銘柄(約36%)
横ばい 44銘柄

値上がり62%・値下がり36%という比率は今週で最も広い上昇だった。前日(11日)の「値上がり34%・値下がり63%」から劇的に逆転しており、単なる指数の急上昇ではなく市場全体に買いが広がったことを示している。売買代金12兆7,697億円も今週最大で、「週末の手仕舞いよりも買い越し」という投資家の積極的な姿勢を映している。

日経平均(+2.81%)がTOPIX(+1.35%)の約2倍の上昇率となったのは今週と同じ構図だが、今日は「指数が上がっても市場は下がっている」ではなく「指数も市場も上がった」という健全な上昇だった。

2. 日経平均を動かした主な要因

①トランプ大統領の対イラン攻撃中止表明と停戦合意への期待

6月11日(米国時間)の午後1時半頃、トランプ大統領がSNSに「イランとの協議が同国指導部の最高レベルにまで持ち込まれ承認されたことを踏まえ、今夜予定していた攻撃と空爆を中止した」と投稿した。さらに「イランとの戦争を巡る和解に達し、署名は週末にも行われる可能性がある」と発言。6月8日から続いた「ホルムズ封鎖→CPI加速→金利上昇→株安」という悪循環を一気に断ち切るニュースとなった。原油先物は急落し、86ドル割れ水準まで下落。米長期金利も大幅に低下し(4.46%台)、AI・ハイテク株のバリュエーション改善につながった。

ただし合意はまだ最終決定ではない。イラン外務省報道官は「文書の大部分はすでに最終決定されていたが、米国側が立場を次々と変えた」として合意が完結していないことを強調しており、週末の署名実現は来週月曜(6月15日)の東京市場を左右する最大の材料となる。

②前日(6月11日)の米国市場の大幅反発

11日のNY市場ではダウが929.97ドル高の50,848.75ドル、ナスダックが640.16ポイント高の25,809.66、S&P500が+1.75%の7,394.30でそれぞれ取引を終えた。素材(+3.26%)・資本財(+3.25%)・情報技術(+2.94%)が上昇セクターの上位に並び、半導体関連(KLA、マイクロン、アプライド・マテリアルズ、インテル、AMD)が大きく反発した。これを受けた東京市場では、今週売り込まれていたAI・半導体株への見直し買いが一気に広がった。

③メジャーSQの「幻のSQ」現象——需給の一方的な買い圧力

6月限の株価指数先物・オプションの清算日となる本日のSQ値は66,698.04円(市場推計)。前日終値(64,217円)と比べて約2,480円高い水準でSQが算出された。一般的に「SQ値>前日終値」となった場合、先物やオプション(特にコール)を持つ投資家に有利な展開になることから、SQ算出に向けた買いが集中し相場を大きく押し上げた。終値(66,020円)はSQ値(66,698円)を下回っており、これはいわゆる「幻のSQ」(終値がSQ値を下回る)の状態だが、SQ値の算出が午前9時台に行われる中で日中に1,000円以上の値幅があったことは、今週の極限のポジション解消の結末として理解できる。

④スペースXのIPO(公開価格135ドル)への注目

スペースX(ティッカー:SPCX)が本日ナスダック市場に上場した。公開価格は135ドル(株式分割後の調整済み価格)。調達額750億ドル(約12兆円)、時価総額約1.75兆ドル(約283兆円)という史上最大のIPOが正式に幕を開けた。前週からのAI・半導体株への換金売り圧力の「原因」が本番を迎えたことで、需給懸念の峠を越えたとの見方も浮上。日本時間12日の深夜以降に初値がつく予定で、上場初日の値動きは来週の市場に直接影響する。

3. 寄与度分析

区分 銘柄 コード 前日比 寄与度
▲ 押し上げ上位 キオクシアHD 285A 確認できず(急伸・時価総額国内首位) 確認できず
ファーストリテイリング 9983 確認できず(上昇) 確認できず
ディスコ 6146 確認できず(上昇) 確認できず
イビデン 4062 確認できず(上昇) 確認できず
東京エレクトロン 8035 確認できず(反発) 確認できず
▼ 押し下げ上位 リクルートHD 6098 確認できず(下落) 確認できず
テルモ 4543 確認できず(下落) 確認できず

本日の最大の注目点は、キオクシアHDの急伸による時価総額の「トヨタ越え」だ。キオクシアは今週、8日(−6,260円)→9日(+4,570円)→10日(−5,950円)→11日(+4,940円)という乱高下を経て、本日の急伸で国内最高時価総額銘柄に浮上した。これは単なる個別銘柄の話ではなく、「自動車製造業の巨人」から「AI半導体企業」へという日本産業の重心移動を示す象徴的な出来事として市場に受け取られた。財経新聞の寄与度記事(16時台公開予定)で具体的な円数値を確認する必要があるが、キオクシアが本日の押し上げ寄与の中心だったことは確実だ。

4. 東証プライム騰落状況

値上がり964銘柄(62%)という比率は今週最大だ。8日(値下がり7割)・10日(値下がり44%)・11日(値下がり63%)という今週の流れから見れば、本日の64%が値上がりという数字は「市場全体での本格的な回復」を示している。前日に上昇したディフェンシブ・内需セクター(保険・食料品・不動産)はどうなったか——おそらく本日は反動安となり、代わりにAI・半導体・ハイテク銘柄が全面高。1週間を通して「ハイテクが下がればディフェンシブが上がり、ハイテクが戻ればディフェンシブが下がる」という逆相関ローテーションが繰り返された。

売買代金12兆7,697億円は週間で最大だった。SQという制度的な要因(清算日の商い集中)に加え、停戦期待という突発的な正材料が重なったことで、機関投資家・個人・海外勢の三者が同じ方向に動いた。これほどの商いの厚さは、「底値を確認した後の本格的な買い戻し」という解釈を支持する。

5. 業種別・テーマ別動き

▲ 上昇セクター(今週の敗者が今日の勝者)

半導体・電子部品(全面高):今週の最大の被害者だったキオクシアHD・東エレク・アドバンテスト・イビデン・ディスコ・村田製・TDK・フジクラがいずれも大幅反発。「SOX-10%→SOX+5.6%→SOX急反発」という乱高下に対応した形で、東京の半導体株も同様の急騰を演じた。

AI関連・ソフトバンクG:ソフトバンクGも前日の−587円(一時10%超安)から反発した(終値確認できず)。AI投資の「担い手」として評価が戻った。

▼ 下落セクター(今週の勝者が今日の敗者)

ヘルスケア・医薬品:テルモ(前日+95円→本日下落)など。今週のリスクオフ局面でディフェンシブとして買われた医薬品・精密機器が反動安。

サービス:リクルートHDが本日も下落。グロース株の中でも「純粋なAI半導体」ではない銘柄への資金流出が続いた。

6. 為替・米国株・金利の影響

項目 水準 前日比 備考
ドル円(東京15時) 160.35円 小幅円安 ザイFX!15時時点の確定値。東京早朝安値159.91円から上昇。介入警戒ゾーンに接近
NYダウ(6/11終値) 50,848.75ドル +929.97ドル(+1.86%) 財経新聞確認。イラン攻撃中止表明を受けた急反発
ナスダック総合(6/11終値) 25,809.66 +640.16(+2.54%) 財経新聞確認。AI・ハイテク全面高
S&P500(6/11終値) 7,394.30 +127.31(+1.75%) OANDA確認。素材・資本財・情報技術が上昇上位
米10年債利回り 4.473% 大幅低下 ザイFX!11:35時点の時間外水準。攻撃中止→原油急落→金利低下の連鎖
WTI原油 86ドル割れ 急落 ロンドン朝方(日本時間16:05)時点。6/10終値91.78ドルから約5ドル急落

今週の東京市場を通じて最も重要な外部変数は「中東情勢」と「FRB利上げ観測」の二つだった。本日、イランとの攻撃中止表明という「中東」要因が劇的に改善し、同時に原油急落→インフレ懸念後退→金利低下という「FRB」要因にも波及した。「2つの重荷が同時に軽くなった」という稀有な組み合わせが、1,802円という大幅高を演出した。

ドル円は160.35円と依然として160円台を維持している。日銀の追加利上げ(来週15〜16日)が確定的な中で円高が進まない背景には、「イラン合意→リスクオン→円安」という逆説的な動きがある。来週の日銀会合後の植田(副総裁)コメント次第では、円が急速に強まるリスクも残る。

7. 個別決算・材料株

銘柄 材料内容 株価反応
キオクシアHD(285A) 米イランの戦闘終結期待でAIデータセンター向けメモリー需要への楽観論が再燃。時価総額でトヨタを抜いて国内首位に浮上 急伸(終値・騰落率は確認できず)。本日の相場の象徴銘柄
スペースX(SPCX) ナスダック上場初日(公開価格135ドル)。日本時間22時頃以降に初値確定予定 東京市場への直接的な影響はなし。上場後の値動きが来週の市場に影響
ディスコ(6146) 半導体製造装置として今週の急落から反発。SOX反発の直接受益 上昇(前日比・終値確認できず)
イビデン(4062) AI向けパッケージ基板。米株ハイテク全面高の流れを受け反発 上昇(前日比・終値確認できず)

8. テクニカル面

終値66,020円の位置づけを今週の値動きで整理する。

基準 水準 本日終値との関係
6月6日(前週末)終値 66,588.12円 終値はこれを568円下回る。週間では−568円(−0.85%)
6月8日(今週月曜)安値 63,406円 安値からの回復幅は+2,614円(+4.1%)
6月11日(前日)安値 62,335円 今週最安値からの回復幅は+3,685円(+5.9%)
6月限SQ値(市場推計) 66,698.04円 終値はSQ値を678円下回る「幻のSQ」
5月7日 史上最高値 68,402円(推定) 最高値まで約2,382円(−3.5%)
25日移動平均線(11日時点) 64,061.89円 本日の終値は約1,958円上(回復)

今週(6月8〜12日)の日経平均の週間騰落は前週末比−568円(−0.85%)だった。8日の−2,563円急落から始まり、乱高下を経て週末に66,000円台を回復するという「激しい週だったが結果的には小幅安で収まった」展開となった。25日移動平均線(64,062円)を今週中に一度大きく割り込み(11日安値62,335円)、そこから回復したという構図は、中長期的なトレンドの強さを示す一方で、高値(SQ値66,698円)には届かなかったことから、上値の重さも残る。

来週は日銀会合(15〜16日)・FOMC(16〜17日)という二大イベントが控える。イランとの停戦が正式署名されれば66,588円(前週末終値)・67,000円超への回復シナリオが浮上するが、「幻のSQ」という形で66,698円が壁として意識された今週の経験は、来週の上値抵抗として残る可能性がある。

9. 見通し(予想レンジ)

期間 想定レンジ 主な前提条件
翌営業日(6/16) 64,500円〜68,000円 週末のイラン停戦署名実現ならギャップアップ。日銀会合(15〜16日)の結果・スペースXの初値・FOMC(16〜17日)が材料。正式署名なし・日銀タカ派なら64,500円への押し。
1ヶ月後(7月中旬) 62,000円〜70,000円 日銀0.25%利上げ確定後の需給整理。FOMCがタカ派なら下振れ。停戦成立・原油下落・インフレ鈍化なら上振れ。スペースXのインデックス組み入れ(6月末〜7月)の需給も注目
1年後(2027年6月) 62,000円〜82,000円 AI需要の中長期継続と利上げサイクルの終息が基本シナリオ。停戦成立→原油正常化→インフレ鎮静→利下げ転換なら大幅上昇も。停戦破綻→原油100ドル超長期化なら下値リスク大

10. 今日の結論

「激動の一週間の幕引き——AIシフトは崩壊ではなく加速だった」

6月8日から12日までの5営業日を振り返ると、日経平均は2,563円急落→1,392円反発→1,237円急落→37円微反発→1,803円急反発というジェットコースターを演じた。週間では−568円(前週末比)という着地点は数字だけ見れば地味だが、その裏には「米雇用統計ショック→SOX10%急落→ホルムズ封鎖→CPI4.2%→植田総裁入院→SQ→停戦期待」という前代未聞の材料ラッシュがあった。

一週間の乱高下を経て見えてきた本質は何か。「AIバブル崩壊」ではなく「AIシフトの加速」だという点だ。キオクシアHDの時価総額がトヨタを抜くという歴史的な場面が、まさに底値から1,800円戻した今日に起きたことは偶然ではない。市場は激しい揺れを経ながらも、「次の日本株の主役」の座をAI・半導体関連に与えることを選んだ。来週の日銀会合・FOMC・スペースXの初値という三大関門を通過した後の相場の方向性が、今年後半の日本株の趨勢を決める。通常版の記事はこちらからご覧いただけます。

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